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流れ星 [コラム]

 金曜の夜。地下鉄の中で携帯メールを開きながら、「圏外」の表示をもどかしく思う。向かう先は、いつもの空間、いつものメンバー。ずっしりと重い本やパソコンを持っていても、心は軽い。それを象徴するかのように、買ったばかりの緑色のワンピースがふわりふわりと揺れる。

 駅まで迎えに来てくれた友人と歩きながら、とりとめもないことを話す。起こった問題の対処方法、そこから学んだこと、ストレスフリーな人生、ポジティブさの確認。そして、話題が「私たち幸運だね。これから、いっぱいいいことあるね」に及んだそのとき・・・・!!!

「・・・見た?」

「・・・見た。」

 すごい。見たこともないような、緑色の、大きな流れ星。澄んだ輝きを放って、「私たちの家」の方に向かってすーっと消えていった。
「すごいすごいすごいっ、何あれ、緑だった! 大きかった! びっくりした!」
「うんうん、今までの人生で、一番大きかった。」
 本当に、本当に、奇跡みたいな流れ星。引き寄せられたみたいにやって来た。
「緑って、一番好きな色。」
「私のワンピースも、緑だよ。なんか示唆的!」

 家でワインを飲みながら、こんなにもまっすぐで前向きで魂の美しい人といられることを、本当にありがたいと思った。そう言ったら、
「君もでしょ。」
 と切り替えされた。
 うん、とうなづいてから、私は言った。
「でもね、私、昔はすごく後ろ向きだったんだよ。どうしてか、全てに無理してるみたいで、生きてることがつらかった。」

 高校時代の会話を思い出す。
「私、すっごい後ろ向きなんだよね。ま、それでも人並みに走れてることがスゴイでしょ?後ろ向きで全力疾走だよ。」
 ちょっと厭世的に、尊大さを装って言う私に、後輩の男の子は言った。
「あはは!本当ですね。これがそのうち前向きになったら、もう誰にも追いつけないくらいのスピードになっちゃうんじゃないですか?」
「えっ? ないない! 私が前向きなんて、ありえないよ。後ろ向きでもっと早く走る方法、勉強するもん。」
 私は笑いながら、彼の言葉を否定するみたいにひらひらと手を振った。

 それでも、訪れたのだ。彼の言葉は予言だったかのように、前を向いて走るときはやってきた。
「大きくなったら、きっといいことある。」
 自分に言い聞かせてきた幼い日のあの言葉は、ただの慰めなんかじゃなかった。

ほろ酔い気分の中、空気のきりりとしたベランダで星を見上げる。
「流れ星、ミラクルだったね。」
「緑。グリーンライト。神様が、『Go!』って言ってるみたい。」
「・・・だね! 神様のゴーサイン、もらっちゃったね。」
 笑い声が向かいのビルに小さくこだました。

 神様が走れって言うのなら、行くしかないよね。きっと、なんでもできる。私のクラウチングスタートはずいぶん遅かったのかもしれないけれど、十分にかがんだ分、どれだけでも速く、どこまでも遠く、走っていける。

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