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小さな部屋の外で [コラム]

 私は仕事で、「問題」を抱えた子供たちの話を聞いている。学校のこと、家族のこと、生活の中で感じていること、失敗から学んだこと・・・。話を聞くための狭い部屋の中で、子供たちは、いろいろと考えを巡らせながら、自分自身のことについて私に答えてくれる。そんなやりとりの中で、私は子供たちの思いや、問題の原因、もっと大きく言えばこれまでの彼らの人生を理解しようと自分なりに努力する。そして、子供たちの心の一端に触れることができたと感じるときは、自分の世界が広がり、想像力が少し鍛えられるように思う。

 先日、町中で、自分が担当した子を偶然見かけた。それはもう、心が軽くパニックになるくらい、どきっとした。ちょっと無表情で物憂げだったのは、私が会ったときと変わらなかったけれど、話を聞いたあの小さな閉ざされた部屋の中じゃなく、外の世界と繋がっているあの子を見たことは、私にとって衝撃だったのだ。あの子の日常に実際に出くわし、あの子の生活がリアルに伝わってきて、私はうろたえさえした。「想像」の世界でしかなかった誰かの日常を、「現実」に目の当たりにすることは、こんなにも心を揺さぶることなんだ。私はなぜだか少し泣きたいような気持ちになって、足早にその場を通り過ぎた。

 もちろん、私があの小さな部屋の中で聞いたことだけが、その子の全てではないということは分かっている。友達や親の前で見せる顔は、また違うのだろうということも分かっているつもりだ。子供たちとの会話の中で、私はそれらを想像するだけ。ただ、それだけしかできない。だからこそ、理解に近づこうと想像し渇望していた「小さな部屋の外での彼らの一面」が現実に目の前に表れたとき、私はあんなにも動揺したのかもしれない。生の情報は、ふわふわとしたイメージとは異なり、突然私の心をざらりと触っていった。

 ぼんやりと、あの子の将来を考える。やっぱりそれは単なる想像の世界であって、もしあの子に、いつか何らかの形で出逢ったとき、私はきっとまた同じ衝撃を味わうのだろう。笑顔の未来だといいな。そう思いながら、もしかしたらの偶然の再会を楽しみにできる今を考えると、ざらりと心を触ったあの現実に、私は少し成長させられたのかもしれない。

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コメント 2

masashi

これ、上手くいえないんだけれど、なんだかとても心揺さぶられる経験なんだな、ということを感じました。リアルが突如迫ってきて、でもそういうことが生きていることだっていうように。
「小さな部屋の外」っていいね。
by masashi (2009-05-26 14:03) 

mymery

☆masashiさん☆
ありがとうございます。
本当に、「引っ越しするんだぁぁ!」と言い出すほどの動揺っぷりでした(←常に行動が極端。)。
でも、今はそういう経験にも感謝しています。
小さな部屋の中での出来事は、バーチャルなんじゃないかとも一瞬考えましたが、彼らにとってはそれも、リアルな現実なんだろうと思い直しました。
あの場所で彼らが感じるであろう思いも大切にしていきたいです。
by mymery (2009-05-26 20:11) 

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