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ただいま。 [コラム]

 自分は帰属意識の欠如した生き物だと思ってきた。幼い頃はオリンピックで自国を応援する母の行動が不可解に映ったし、学生時代は愛校心とは無縁の生活を送ってきた。むしろ何かに所属することに居心地の悪さを感じ、いつでも自由でいたいと思っていた。地域交流活動の意図も分からなかったし、連帯責任なんて言葉、大嫌いだった。そのくせ社会に媚びるようなところがあって、妙に処世術にだけは長けている、そういう子供だったように思う。体は縛りつけられているのに、心だけが根無し草。そんなジレンマな生き方は、時に空虚さを伴うものだったけれど。

 そんな私も、年齢を重ねたせいか、故郷に帰るときにはことさらに感慨深さを覚えるようになった。久しぶりに実家に帰ると、心だけじゃなく、細胞のひとつひとつが、「懐かしさ」を感じている気がする。ずっと一緒にいた人や、ずっと食べてきた母の手料理、ずっと育ってきた家、ずっと吸ってきた茶畑が作る空気。そういうものは、もしかしたら細胞の中にまで入り込んでいるのかも知れない。「細胞は28日周期で生まれ変わる」なんていう知識は置いておいて、久しぶりの実家の畳にごろんと横になりながら、私はそんなことを考えた。

 まだ小さくて無力だった自分を支えてきてくれたもの。少しずつ成長する自分と一緒に歩んできてくれた人。新しいことを経験して、新しいことを知るほどに、過去に与えられてきたものに愛しさがこみあげてくるのはなぜだろう。

 自由を何よりも愛する私が何度も帰る、過去のしがらみだらけの場所。窮屈だと思ったこともある。行く手を阻まれたと感じたこともある。それでもかなぐり捨てられなかったのは、確かに大切なもの。

 自分の根幹を形作ってきた大切なものに会うために、人は帰るのだろう。生まれた場所に。
 「ただいま。」= Just Now.
 「今」を背に負いながら、再び、過去に会いに。


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