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帰る場所 [コラム]

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 お盆に帰省した。私の帰属は、すっかり自分が今住む場所になってしまったように思うけれど、それでも実家は変わらず、私の「帰る」場所だと思う。父にお小遣いをもらうのではなく、あげるようになったり、車に乗せてもらうのではなく、自分が運転手になったりと、たくさんの変化はあるけれど、変わらないものってやっぱりあるのだ。童心に返るつもりなんてなかったけれど、子供のように母にぺったりとくっついて甘えたり、上映中のアニメ映画を観に行ったりしたのは、自分の中の変わらぬ部分を確認するためだったのかもしれない。

 母と日本地図のジグソーパズルをやりながら、ふと、幼い頃自分が社会科が苦手だったことを思い出す。なんでもできなければいけないのだと、自分を責め、苦しんでいたことを。当時の気持ちをなぞるかのように、私は知らず知らず、拗ねた子供みたいに口をとんがらせた。やりかけのパズルのピースを投げ出して、帰宅したばかりの父の下に行ったら、何も知らない父は、上機嫌で「お前もどうだ?」と、ビールと落花生を勧めてくれた。ビールの炭酸は、しゅわしゅわと喉をくすぐり、私の心をやわらかくした。私はすぐに機嫌を直し、父と笑いながら、日常の瑣末な話を始めた。

 つらかったのは、自分で自分を認めてあげることができなかったから。苦手なものなんてあったっていいんだよ。それも含めて、あなたの個性なんだから。幼い頃の自分に言い聞かせるかのように、心でつぶやく。どんな好き嫌いや得手不得手を持っていても、それらを無理に変えようとせず、まずは丸ごと認めてあげることが大切なんだ。こんがらがっていると、自分を大切にできない、人にやさしくできない。父と一緒に飲んだビールが美味しかった。そういう単純で心地良いことたちを感じながら、生きていけばいいんだ。

 私は、私を矯正する必要なんてない。ただ本当の自分に帰ればいい。私は私自身の中に、帰る場所を持っているんだから。もしも変わっていく部分があれば、変化を喜び、楽しみながら、それを自然に受け止めればいい。これからも私はどんどん変わっていくだろうけれど、帰る場所は、本当の自分は、きっと変わらない。

 帰省すると恒例の、夜の散歩に出かけた。月明かりだけだった実家の前の道に、ぽつんと街灯が出来ていた。「ここも、銀座並みになったぞ。」と父がおどけて言い、私はきゃはは、と声を上げて笑った。
「今度あのへんにな、大型ショッピングモールが出来るらしいぞ。」
父が指をさした。
「へぇ、あちこち出来るね、そういうの。」

 変わっていく、私の「帰る」場所。
 でも、ちっとも寂しくなんてない。
 だって、そこは私の帰る場所であり続けるから。そして、おいてけぼりにされるんじゃなくて、一緒に変わっていけると思うから。

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jikuh

おかえりなさい。待っていたよ。

って言われるだけで、幸せになれるんだよね~

いつもありがとう。
by jikuh (2008-08-20 07:44) 

mymery

☆jikuhさん☆
こちらこそ、ありがとう~~~。
by mymery (2008-08-20 22:11) 

バーバリー アウトレット

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま~す。よろしくお願いします
by バーバリー アウトレット (2013-07-31 15:49) 

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