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電車の親子 [コラム]

 電車で座っていたら、足をこつんと蹴られた。まどろんでいた私ははっと目を覚まし、ちょっと驚いて顔を上げた。そこには小学校中学年くらいの男の子が母親にまとわりつくように体を寄せて甘えていた。母親は、小さく「すみません。」と言ってお辞儀をし、「ほら、ちゃんと立って。」と男の子に言った。男の子はじっとしていられないのか、体をくねらせたり足をばたばたさせたりして落ち着かない。母親はそれを支えるように片手をつり革に、片手を男の子に回していた。お母さんと一緒のお出かけがうれしいのかな。はしゃぐ男の子の様子が微笑ましくて、思わず顔がほころんだ。

 そのうちに私の隣の席が空き、男の子はすぐさま勢いよくそこに座った。座席の上でも落ち着かず、体を揺らしている。母親はしきりに「手は膝。手は膝ね?」と言うが、男の子は知らん顔で、はしゃいだように暴れ回っていた。私が、
「ママとお出かけうれしいねぇ。どこに行くのかな?」
 と話しかけると、男の子はきょとんとした顔で私を見て、またすぐに同じような動きを始めた。不意に母親が、
「すみませんね、この子、普通の子じゃないものですから。言葉も全然わからないんですよ。」
 と言った。胸がぎゅっとなった。
 この人は、この台詞を、これまで何度、何人に言ってきただろう。


 ことあるごとに「普通の子じゃないものですから」と言って周囲に頭を下げてきたであろう母親の姿を思ったら、切なくて切なくて、涙がこぼれそうになった。それはなんて悲しい口癖だろう。そう思いかけて、すぐにその考えを捨てた。そうですよね、この子は、「普通の子」なんかじゃない。あなたにとって、何よりも大切で、特別な子、ですよね。心の中で、母親にそう返した。

 心や体に障害を持つ人々や、そういった家族を持つ人々の多くが、「生まれ変わっても同じ環境を選びたい」と言うのを聞いてきたことを思い出す。それはきっと、そこから大きな愛や学びや、言葉になんてしきれない大切な何かを得ているからだろう。本当に、私は日々、いろんな人にいろんなことを教えてもらっているな。電車を降りる親子を見送りながら、そう思った。ふと男の子の去った場所に手を置くと、そこはまだ温かくて、私はその座席をそっとなでながら、ありがとう、とつぶやいた。



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あちた

天国の特別なこども

会議が開かれました。
地球からはるか遠くで。
“また次の赤ちゃんの時間ですよ”
天においでになる神様に向かって天使たちは言いました。
“この子は特別な赤ちゃんでたくさんの愛情が必要でしょう
この子の成長はとてもゆっくりに見えるかもしれません。
もしかして一人前になれないかもしれません。
だからこの子は下界で出会う人々に特に気をつけてもらわなければならないのです。
もしかしてこの子の思うことはなかなか分かってもらえないかもしれません。
何をやってもうまくいかないかもしれません。
ですから私たちはこの子がどこに生まれるか注意深く選ばなければならないのです。
この子の生涯がしあわせなものとなるように。
どうぞ神様この子のためにすばらしい両親をさがしてあげてください。
神様のために特別な任務をひきうけてくれるような両親を。
その二人はすぐには気がつかないかもしれません。
彼ら二人が自分たちに求められれいる特別な役割を。
けれども天から授けられたこの子によってますます強い信仰と豊かな愛をいだくようになることでしょう。
やがて二人は自分たちに与えられた特別の神の思召しをさとるようになるでしょう。
神からおくられたこの子によって。
柔和でおだやかなこの子という授かりものこそ天から授かった特別なこどもなのです。
by あちた (2008-09-23 23:51) 

mymery

☆あちたちゃん☆
すてきなお話ありがとう。キリスト教のお話かな?
すばらしくリンクしているね。日々学び、日々感謝。
あちたちゃん、ちゅっちゅっ!
by mymery (2008-09-23 23:56) 

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