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インド旅行⑦消えたミギョン [インド2008Jun-Jul]

朝5時半に目が覚めた。
ミギョンが昨夜から戻っていない。

なんだか、胸騒ぎがする。新しくできた友達のところにでも泊まったのだろう。自分に言い聞かせるようにしながら、身支度をして、散歩に出かけた。時間にしたら、もう1日半くらい何も食べていないけれど、不思議と空腹は感じず、体調もそんなに悪くない。通りがかりのアシュラムで、ヨガの個人レッスンを受ける元気さえあった。

「おはよう。」
声を掛けてくれたのは、インド人のお兄さん。
「チャイ飲む?」

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【笑顔が素敵なお兄さん。】

お言葉に甘えてをごちそうになると、空腹にチャイの温かさが染み渡った。お兄さんの名前は「R」と言った。バラナシで会った、「R」と同じ名前。「R」がいつもごちそうしてくれたチャイの甘さがよみがえる。楽しいひとときを過ごした・・・はずだけど、どうしても、私はミギョンのことが気になった。


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ホテルに戻ると、ミギョンがいないということで騒ぎになっていた。
「キミの友達は、いったいどこに行ったんだ?」
ホテルのマネージャーが問う。
「分からない。この地で初めて会った子だし、一緒に旅をしていたわけではないの。」
私が答えると、ホテルマネージャーは、ちょっと難しい顔をしながら、こう言った。

「昨夜、ガンジス川で、2人が死んだって聞いた。詳しくは分からないけれど、1人は、外国人らしい。」

ひっ、と喉の奥で思わず短い悲鳴が漏れた。

「そんな・・・そんなわけない!ありえないよ!!!」

私は取り乱しそうになり、マネージャーに詰め寄った。

「そうだとは思うけど・・・」



一昨日のやりとりが鮮明によみがえる。

“ねぇmymery、私、ヨガマスターにヨガのコースを勧められたんだけど、どうかな。山の方の教室だって。大丈夫かな?”

“大丈夫でしょ。でも、気をつけてね。”


ミギョンは、ジャーマンベーカリーで知り合ったインド人にヨガのレッスンを受けに行くと言っていた。ジャーマンベーカリーからバイクでほどない、静かな場所で受けるのだと。だから、きっとそのインド人のところに泊まったに違いない、と、私は希望を込めてホテルマネージャーに言った。

マネージャーは、「知らない人に着いていくなんて」と、苦々しい表情をした。


私の・・・私のせいだ!私がちゃんと止めていれば!私はミギョンよりお姉さんなのに!
乱暴されていたらどうしよう。ううん、ミギョンは旅を続けてきた強い子だ。いや、でも男の力に敵うわけがない。いやいや、ミギョンなら切り抜けられるはず。
私の心は、打ち寄せては引く波打ち際のようだった。不安の波が押し寄せては、引いていった。

ミギョンの笑顔。一昨日のやりとり。増水したガンジス川。そこで死んだ2人。いろいろな映像が私の頭をぐるぐるする。



「しばらく探して、見つからなかったら、警察に行く。」

マネージャーは言った。
警察・・・!事はそんなに重大なの!
ざっぱんと、大波が私の心を飲み込んだ。
私は、その場で、わっと泣いた。

突然泣き崩れた私を見てマネージャーは少し慌てて、
「どうしたの。」
と、肩を抱いてくれた。
どうしたのじゃないよ、あんたの言葉のせいだよぉぉ!
ひっくひっくと嗚咽する私に、マネージャーは
「大丈夫、きっと見つかるから」
と声を掛け、落ち着かせてくれた。


ネットカフェで、ミギョンとの唯一の連絡手段であるEメールを送信し、ホテルに戻ったが、やはりミギョンは帰ってこない。
「ジャーマンベーカリーに行こうと思うの。何か情報があるかもしれない。」
私がそう言うと、ホテル関係者のおじさんが
「ちょっと待ってな。バイクで行くから。」
と言い、私を後ろに乗っけてくれた。人と人、時に牛の間をすりぬけながら、バイクはぐんぐん進み、橋を越えた。

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ジャーマンベーカリーは閉まっていた。ベーカリーのスタッフのおじさんがいて、「Shantiなら何か知ってるんじゃないか。」と言う。「Shantiの知り合いじゃないと思うけど・・・。」そう言う私の言葉をインド人たちは否定して、Shantiの家に行くことになった。

どちらにしろ、今日もShantiと会う約束だった。12時過ぎという、約束よりずいぶん早い時間に着いてしまったけれど、Shantiはいつも通りの笑顔で私を迎え入れてくれた。ホテルのおじさんが、「ゲストが戻らないんだ。一緒に行ったインド人を知らないか。」と聞くと、Shantiは深刻な表情になった。
「知らないわ。その子は、いつから戻らないの?」
「昨夜から。」
おじさんが答えると、Shantiは
「ああ、それなら心配ないわ。よくあることよ。明日まで待ちましょう。」
と言う。

その一言に、私は胸をなで下ろした。Shantiの言葉は魔法みたい。状況は何も変わっていないのに、私は、ミギョンは大丈夫だって、確信のようなものを得た。Shantiは、すがるような目で立ちつくしていた私を、そのまま家に招き入れてくれた。

「どうぞ。」
Shantiの用意してくれたレモン水を、私はごくごくと美味しくいただいた。緊張で喉がからからだったことにも気付かなかったのだ。レモンの酸味と爽やかさが、もう一段階私を落ち着かせてくれた。

「しばらく横になっていらっしゃい。」

そう言われて、私はShantiのベッドに身体を横たえた。Shantiは、私の心も身体も読めるみたい。。。私の身体は、ベッドに吸い込まれた。


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しばらくすると、ドイツ人の2人が訪れた。けれど、オーストラリアの女性がまだ来ない。道に迷ったのかしらね、とみんなで話しながら待った。Shantiは、「ちょっと、外で待っているわね。」と言って、玄関を出た。私も後を追うように外に出ると、Shantiは、道を隔てた店の前に腰を掛けていた。
私を見ると、笑顔を見せたShanti。お昼の明るい日差しの中で、Shantiは一段と輝いて見えた。

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【大好きなShanti。】

並んで腰を掛けて、オーストラリアの彼女を待った、ほんの15分間。私はただ、幸せだった。
「今日は、いろんな人が行方不明になる日ね。」
Shantiが茶目っ気たっぷりに言う。
「うふふ、そうですね。」
私は声を出して笑った。

心がきゅん、となる。Shantiを独り占めしたい。誰にも取られたくない。
恋にも似た、欲張りな私の心。Shantiと、ううん、宇宙と一つになれたら、こんな思いは抱かずに済むのに。
いや、本当は、もうすでに一つなんだ。私がそれに上手に気づけずにいるだけ。ただ、それだけのこと。



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オーストラリアの彼女も揃い、レイキのセッションは大成功。バックのヒーリングがとても気持ちよかった。
足取りも軽く、ホテルの近くに戻ると、ネットカフェで、ミギョン発見!!!!!

「もう!心配したんだから!」

ちょっと涙ぐんで私が抱きしめると、

「ごめんね、ちょっと遠くに行くことになっちゃって戻れなかった。あの自称ヨガティーチャー、私と恋愛関係に持ち込もうとしたけど、ふざけるなって言ってやったわ。無理強いはしなかったし、大丈夫だったよ!」

ばかばか~、と韓国語でミギョンを責めながら、私は大きな安堵の中に居た。


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